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6 フィリピン

6.2 日本の支援方針と支援事業

6.2.1 支援の内容

表6-1は1997年度から2000年度までに実施された日本の支援である。色付けされた項目はアジア通貨危機支援のために実施されたプログラム借款、ノン・プロジェクト無償、新宮沢構想に基づく借款、特別円借款であり、それ以外はこれまで実施してきた支援の延長として実施されたものである。

1998年度から2000年度に供与が決定された42件の円借款を見ると、プログラム借款は「メトロマニラ大気改善セクター計画」の1件で、その他はすべてプロジェクトへの借款であった。金額ベースでは、プログラム借款の全体のシェアは9パーセントであり、今回調査を行った3ヵ国のなかで最低の水準となっている。そして、「メトロマニラ大気改善セクター計画」への借款で発生した見返り資金も、他のプロジェクトに対する円借款のフィリピン側負担分に使われた10。新宮沢構想に基づく支援はこの「メトロマニラ大気改善セクター計画」と23次借款の13件のプロジェクトローンであり、2002年3月末現在、特別円借款は7件のプロジェクトに対して貸し出された。現在のところ、フィリピンは最も特別円借款を利用している国である(借款総額1,161億円、特別円借款全体のシェア41パーセント)。

無償資金協力を見ると、1997年度と1999年度にノン・プロジェクト無償資金協力が実施されたが、全般的にはプロジェクト無償中心の支援であった。1997年度から2000年度の無償資金協力の金額に占めるノン・プロジェクト無償の割合は14パーセントであり、これも今回調査を行った3ヵ国のうちで最低の水準となっている。

表 6-1 日本のフィリピンへの支援(1997-2000年度)
(単位:億円)
年度 有償資金協力 無償資金協力 技術協力
1997 合計   合計 90 合計 76
  プロジェクト無償(11) 69 研修 640人
ノン・プロジェクト無償 20 プロ技 19件
草の根無償(37) 1 開発調査 23件
1998 合計 1570 合計 59 合計 78
22次借款(13) 1207 プロジェクト無償(4) 41 研修 951人
メトロマニラ大気改善セクター開発計画 363 食糧増産援助(1) 16 プロ技 17件
    草の根無償(36) 1 開発調査 17件
1999 合計 1357 合計 102 合計  
23次借款*(13) 1357 プロジェクト無償(5) 43 研修 866人
    食糧増産援助(2) 33 プロ技 18件
ノン・プロジェクト無償 25 開発調査 30件
草の根無償(28) 1    
2000 合計 1288 合計 62  
特別円借款(6) 742 プロジェクト無償(6) 45
24次借款(9) 546 食糧増産援助(1) 16
    草の根無償(30) 1
注:「年度」の区分は、有償資金協力は交換公文締結日、無償資金協力および技術協力は予算年度による(ただし、96年度以降の無償資金協力実績については、当年度に閣議決定を行い、翌年5月末日までにE/N署名を行ったもの)
  「金額」は有償資金協力および無償資金協力は交換公文ベース、技術協力はJICA経費実績ベースによる
  * 新宮沢構想に基づく借款
出典:1997年度から1999年度はODA白書をもとに作成。2000年度は外務省資料をもとに作成

図 6-1 フィリピンの社会経済状況と主要援助機関の支援

技術協力の分野では、インドネシア、タイと異なり、研修を受けた人数の増加はそれほど大きくなかった。

6.2.2 世界銀行・アジア開発銀行との役割分担

世界銀行・アジア開発銀行と日本の役割分担は、支援のタイミングと支援の内容から分析することができる。

図6-1は支援のタイミングを分析するために、フィリピンの社会経済の状況と主要援助機関の支援の動向をまとめたものである。ペソの為替レートの下落は1997年9月ごろから始まったが、翌年2月ころには下落は止まっている。1997年には通貨危機の影響でフィリピン政府が予算の組替えを行った影響で円借款の供与が行われなかったが、その後は毎年支援が行われた。

フィリピン経済は経済の安定を失わなかったこともあって、支援のタイミングの役割分担を図る必要はなかった。従って、支援のタイミングに関して明確な役割分担は見られない。

次に支援内容の役割分担を分析する。IMF、世界銀行、アジア開発銀行のフィリピンへの支援の特徴は表6-2に示すとおりである。IMFはフィリピン政府の要請に基づいて13億ドルのスタンドバイ取決めを実施した。この金額はインドネシア(拡大信用融資を含めて171億ドル)、タイ(39億ドル)と比較して、極めて低いものである。

世界銀行は通貨危機発生後2000年末までに8件のプロジェクト融資を行っている。重点支援分野は地方開発、農業開発計画、社会的弱者支援である。また、3つのプログラム・ローン(総額6億ドル)で金融部門への支援を行った。

表 6-2 IMF、世界銀行、アジア開発銀行のフィリピンへの支援の特徴
IMF 世界銀行 アジア開発銀行
・スタンドバイ取決めの実施(2年間、13億ドル) ・金融部門への支援(6億ドル)
・地方・農業・社会分野重視
・Country Assistance Strategy
・3つのプログラム・ローン(6億ドル)
・2000末までに15件のプロジェクトローン、地方の開発

出典:調査チーム

アジア開発銀行は2000年末までに15件のプロジェクトローンと3つのプログラム・ローンを実施した。プロジェクトローンの分野は地方の農業・環境分野の開発と社会インフラ整備が主体である。

日本の支援の多くはエネルギーや運輸分野など、経済インフラの整備のためのプロジェクト借款にあてられており、世界銀行やアジア開発銀行以上に中長期の経済成長軌道を上昇させるための支援に重点をおいていた。

日本政府、世界銀行、アジア開発銀行の3者はそれぞれ特徴的を持った支援を行っているが、一様に「貧困の削減」を重視している。しかし、そのアプローチは異なったものとなっている。世界銀行、アジア開発銀行は地方の社会的弱者に対する社会サービスの供給を重視している。一方、日本の支援は経済インフラの整備により経済活動を活発化させ、それによる所得の上昇を目指している。

6.2.3 事業の国別援助計画における位置付け

日本のフィリピンへの援助方針は「フィリピン国別援助計画11」に定められている。フィリピンの国別援助計画は2000年8月に作成された。その「今後5年間の援助計画の方向性」は、以下のように示されている。

  • フィリピンの自主的努力を支援する
  • フィリピンの財政、事業実施能力、既往案件の進捗状況、日本の財政に考慮しながら、援助の質の向上を図る
  • 4つの重点分野を重視した援助を行う
  • 民間資金、ODA以外の公的支援との役割分担や連携に配慮していく
表6-3は国別援助計画の中で定められた重点分野12と、1998年度から2000年度までの円借款事業、1997年度から2000年度までの無償資金協力の実施分野を分類したものである。複数の目的を持つ事業は重複してカウントしている。

表 6-3 国別援助計画に定められた重点分野と個別案件の実施件数
重点分野 件数
持続的成長のための経済体質の強化および成長制約要因の克服 適切なマクロ経済運営 2
産業構造の強化(裾野産業育成への支援) 3
経済インフラ整備(エネルギー、運輸分野) 22
格差の是正(貧困緩和と地域間格差の是正) 農業・農村開発(農業関連インフラの整備、農業技術の試験研究・普及) 6
基礎的生活条件の改善(貧困地域のプライマリーヘルスケア、人口対策・AIDS、地方の上水道整備、都市の貧困者への支援、児童福祉) 5
環境保全と防災 環境行政能力の強化 1
都市部の廃棄物処理 0
大気・水質汚染や鉱山開発等に伴う環境汚染の対策 2
森林保全・海洋保全などの環境の保全・再生 2
治水・砂防・地震対策への支援 9
人材育成および制度造り 教員の養成・再教育・研修など、教育の質の向上への支援 2
生計手段確立のための職業訓練 1
行政機関の行政能力の向上 1

出典:フィリピン国別援助計画

日本の支援はエネルギー、運輸分野の経済インフラ整備のための支援に集中している。このようなインフラ整備の支援はマニラ首都圏だけではなくフィリピン全国に対して実施されており、地域間格差の是正にも配慮されたものとなっている。

アジア開発銀行もフィリピンに対してインフラ整備のための支援を多数行っているが、住環境改善など社会インフラ中心である。また、日本の支援は大規模な事業に対する支援、アジア開発銀行の支援は小規模な事業を組み合わせた支援を行っているという相違もある。

6.2.4 フィリピン政策担当者の評価

フィリピンの現地調査でも、タイと同様にフィリピン政府の援助政策を調整する大蔵省、国家経済開発庁(NEDA)、予算管理省のスタッフ50人を対象にアンケート調査を行った。質問内容は、日本のフィリピンへの支援は、フィリピンのアジア通貨危機の克服に貢献したか、具体的にはどのような支援方法がアジア通貨危機対策として効果があったか、日本のフィリピンへの支援による具体的な便益は何だったかの3点である。表6-4は質問に対する回答の集計結果である。

表 6-4 フィリピン政府関係者への質問事項
質問項目 回答
日本の支援はフィリピンのアジア通貨危機の克服に貢献したと思いますか はい  76%
いいえ 24%
以下の支援方法のうち、どれがアジア通貨危機対策として効果があったと思いますか(複数回答)
  ノン・プロジェクト無償
  新宮沢構想
  プロジェクトローン
  特別円借款
  専門家派遣
  日本やフィリピンにおける研修事業
「はい」と答えた割合

62%
76%
62%
50%
38%
76%
日本の支援による具体的な便益は何でしたか(複数回答)
  雇用創出
  フィリピン経済の更なる悪化の回避
  中長期の経済発展のためのインフラ整備
  中長期の経済発展のための人材育成
「はい」と答えた割合
50%
38%
88%
76%

出典:調査チーム

全体の76パーセントが日本の支援はフィリピンの通貨危機の克服に貢献したと評価している。効果のあった支援方法は、新宮沢構想、日本やフィリピンにおける研修事業、ノン・プロジェクト無償13、プロジェクトへの借款が挙げられた。また、日本の支援による具体的な便益として、中長期の経済発展のためのインフラ整備、中長期の経済発展のための人材育成を挙げる意見が多かった。

政策担当者へのインタビューでは、フィリピン政府はインフラを整備するための資金が恒常的に不足しているが、日本からの支援はそれを補う重要な資金源の一つであること、そのような資金を少しでもよい条件で借り受けたいとの考えからこれまでに特別円借款を6件(2001年にはさらにもう1件)申請し、実施していること、特別円借款は随時要請を受け付けており、素早い事業の実施に効果があるなどの積極的な評価を聞くことができた。


10 詳細は6.3.1参照。

11 国別援助計画は1998年11月に個別案件の選定に関する透明性の向上のために作成されたもので、5年程度の援助計画を示すものである。

12 重点分野は1999年3月に実施された経済協力総合調査の結果定められたものである1997年度の「我が国の政府開発援助の実施状況に関する年次報告」のフィリピン国別方針では重点分野として、1. 経済基盤整備(特にエネルギーと運輸部門)、2. 産業構造の再編成と農業開発に対する支援(中小企業、輸出産業、農地改革の進捗を踏まえた支援)、3. 貧困対策および基礎的生活環境の改善(保健・医療、教育、上下水・公衆衛生などの基礎的生活環境)、の3つを掲げていた。国別支援計画の重点分野は、これらに加えて環境保全と防災、人材育成および制度造りを重点分野に追加している。

13 フィリピンに対しては2回のノン・プロジェクト無償(総額45億円)が実施されている。このノン・プロジェクト無償は農業用の肥料の輸入に当てられた。また、これらの無償の実施に伴ってフィリピン政府が積み立てた見返り資金は、全国の学校にコンピューターを設置する予算に使われた。




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